大阪高等裁判所 昭和59年(ラ)350号 決定
【判旨】
一件記録によれば、大阪地方裁判所は、相手方の申立にかかる同庁昭和五九年(ヨ)第三〇八六号動産仮差押申請事件につき、相手方に保証を立てさせたうえ昭和五九年七月二七日、相手方を債権者、抗告人を債務者とする動産仮差押決定をなしたこと、相手方は、右仮差押決定に基づき同裁判所執行官に仮差押えの執行の申立をなし、同執行官は、同月二七日及び二八日の両日、相手方代理人を伴つて抗告人所有の動産を仮差押えすべく、大阪市住之江区南港中八丁目三番一三号所在の日新運輸倉庫株式会社南港営業所へ赴き、同営業所長広池紀一らから事情を聴取するなどして調査したところ、抗告人の所有だとされる動産が、昭和五九年七月二〇日付荷渡指図書には、荷受人としてジョートー・コーポレーションと記載されている等の事由により抗告人の所有あるいは占有しているものとは認められないとして、仮差押えの執行に着手せず執行不能として処理したこと、一方前記仮差押決定正本は、同年八月七日同庁において、抗告人の代理人である弁護士和仁亮裕に交付して送達されたこと、又相手方は、同月一七日、前記仮差押申請を取り下げ翌一八日、右執行不能を理由に、担保取消の申立をなしたところ、同裁判所は、担保の事由が止んだものとして、同月二三日、表記の担保取消決定をなしたこと、以上の事実が認められる。
ところで、仮差押決定を発するにあたつて立てさせる保証は、仮差押決定の発令またはその執行によつて債務者(担保権利者)に生ずる有形無形の一切の損害を担保するためのものである。そして民訴法五一三条二項により仮差押決定に準用される同法一一五条一項にいう「担保の事由が止みたるとき」とは仮差押決定あるいはその執行による損害が現に発生せずかつ将来においても発生する可能性が認められない場合をいうものと解すべきところ、仮差押えの執行に着手しないで仮差押申請を取り下げた場合は、特段の事由がない限り、債務者に損害が発生することはないものと考えられるが、本件においては、前記のとおり、執行官が執行現場である第三者のもとへ赴き目的物件の保管者から事情を聴取するなど仮差押えの執行の準備行為に及んでおり又、右仮差押申請が取り下げられた時点では、抗告人は既に、弁護士に事件を委任するなどしていることから、抗告人主張のとおり、それによる抗告人の名誉や信用の失墜による損害及び弁護士費用その他の損害の発生の可能性は充分に察知されるところである。そうすると、このような特段の事由の認められる本件においては担保の事由が止みたるものということはできずしたがつて、担保取消の決定をすることはできないものと解さざるをえない。
よつて相手方の申立に基づき担保の取消をした原決定は失当であるから原決定を取り消し、相手方の担保取消の申立を却下することとし、手続費用は第一、二審とも相手方に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(村上明雄 寺﨑次郎 安倍嘉人)